橋本薫コラム vol.1「なぜ、class A フェスタは感性をテーマにしたか?」
なぜ、class A フェスタは感性をテーマにしたか?
AIは素晴らしい。けれど、そこには越えられない限界がある。
それは、「間違えないこと」だ。
ミスをすること。失敗すること。があるかもしれない。
しかし揺らぐこと。それこそが、人間らしさであり、人を惹きつける魅力でもある。
たとえば、オリンピック。
もし出場するのがすべてロボットだったなら、果たしてあれほど人の心を揺さぶるだろうか。
完璧に記録を出し続けるだけなら、そこに感動は生まれにくい。
大谷翔平選手もそうだ。
彼は驚くほど多くのことを成し遂げる。
しかし、ときには打たれ、ときには三振し、そして疲れる。
だが、その裏にはミスを少しでも少なくする弛まぬ努力がある。だからこそ、私たちは心を動かされる。
もし彼が毎回必ずホームランを打つ存在だったなら、その凄さに驚きはしても、今のような深い感動は生まれないかもしれない。
それでもなお、多くの期待に応え続けてくれる。
だからこそ、人は彼に魅了されるのだ。
けれど、薬剤師は違う。
薬剤師は、ミスをしてはならない仕事だ。
ときに医師へ疑義照会を行うことはあっても、基本は処方箋に基づいて正確に調剤しなければならない。
勝手な判断で処方に手を加えることは、決して許されない。
服薬指導もまた、正確でなければならない。
同じ薬であれば、どうしても説明は似たものになりやすい。
しかし、患者さんの表情も、声の調子も、反応も見ずに、ただ決まりきった薬の説明を繰り返すだけなら、そこに薬剤師が“いる”意味は薄れてしまう。
それでは、AIで十分ではないか、という話になってしまう。
人としての薬剤師の価値が、厳しく問われるのは当然のことだ。
人は、同じ仕事を続けているうちに、少しずつ初心を忘れ、変化を忘れていく。
目の前の一人ひとりに向き合う感覚も、いつしか薄れてしまうことがある。
これまで私が過去に出会ってきた優秀であったであろう多くの人の姿を思い返す。
その中でも優秀で、熱意にあふれていた薬剤師でさえ、いつの間にかルーチンという深い沼に沈んでいくことがある。
だからこそ、感じることを忘れてはいけない。感性を置き去りにしてはいけない。
その思いから、感性を刺激する class A フェスタ を開催した。
その中で、「この一枚に会いに この美術館に」の連載で知られる結城昌子氏と対談を企画した。
なぜ、薬剤師にアートなのか。
科学技術の上で活動している現代の薬剤師にとって身近な言葉である「テクノロジー」という言葉の語源は、ギリシア語の 「テクネー」。
それは本来、単なる技術ではなく、芸術 や 職人の技を意味する言葉だった。
技術も芸術も、本来は人間が何かを生み出す行為である。
だからこそ、AIや効率だけに頼るのではなく、あなた自身の気持ちを伝え、相手に寄り添える薬剤師であってほしい。
機械に仕事を助けられることはあっても、心まで支配されてはいけない。
なぜなら、薬剤師の心が持つ「伝える力」こそが、患者さんに安心を届け、元気を生み出す源泉だからだ。
橋本薫