橋本薫コラム vol.8「あなたは、なぜ薬剤師の仕事をしているのか」
あなたは、なぜ薬剤師の仕事をしているのか
仕事の意味を考えるとき、よく知られた「三人のレンガ職人」の話があります。
これを少し現代的にアレンジして、お話しします。
旅人が、建設現場でコンクリートを練っている三人の職人に尋ねました。
「あなたは、ここで何をしているのですか」
一人目は、不機嫌そうに答えました。
「見りゃわかるだろうが。朝から晩までコンクリートを練っているんだ。腰も痛いし、大変な仕事だぜ」
二人目は、淡々と答えました。
「現場で決められた仕事をしているんだよ。この仕事のおかげで、家族を養っていける」
そして三人目は、目を輝かせながら答えました。
「私は、大きな橋をつくっているんだ。これが完成すれば、多くの人が谷の向こうへ渡れるようになる。暮らしが便利になって、きっとみんなが幸せになるんだよ」

三人がしている作業は、まったく同じです。使っている材料も道具も同じです。
しかし、仕事に対する思いは、まるで違います。
おそらく、働いているときの幸福感も違うでしょう。
薬局の仕事も、同じではないでしょうか。
調剤は、持ち込まれた処方せんの内容が適切かを確認し、決められた薬を、決められた量だけ、正確に用意しなければなりません。少しの間違いも許されない、緊張を伴う厳しい仕事です。
しかし、毎日それだけを繰り返していたら、「私は薬をそろえて、袋に入れているだけだ」と感じてしまう人が出てきても不思議ではありません。
そこで必要になるのが、経営者の語るビジョンです。
「私たちは、ただ薬を渡しているのではない。その人が安心して治療を続け、少しでも元気に暮らしていけるように支えている」
「私たちは、ただ処方せんを受け付けているのではない。地域の人たちの健康と、その先にある人生を守っている」
そうした仕事の意味を、経営者は繰り返し語らなければなりません。
人が仕事に費やしている時間は、単なる労働時間ではありません。その人の人生の一部です。
だからこそ経営者には、社員の時間を給料と交換するだけではなく、その時間を誇りあるもの、有意義なものにする責任があります。
もちろん、ビジョンを一度語っただけで、人が変わるわけではありません。経営者自身がその言葉を信じ、日々の判断と行動で示し続けることが大切です。
同じ調剤をしていても、「薬をそろえている」と考えるのか、「地域の人の健康な暮らしを支えている」と考えるのか。
その違いが仕事への誇りを生み、働く人の表情を変え、やがて薬局そのものを変えていきます。
そして、その誇りこそが、調剤を確かな土台として、その先の健康支援へ踏み出す力になるのだと思います。
あなたの薬局は、調剤業務の先に、地域の人たちのために、どんな素晴らしい橋をつくろうとしているのでしょうか。
橋本薫




